旅人はいつしか、そのプラント特有の電磁波によって精神を侵されていた。
荒廃し尽くした意識の摩天楼一角、形而上の音楽室で彼が聴いていたのは、
自身の苦悩や狂気よって変換された美しい少女の歌声であった。
アクセスランプが不規則に点滅するのをしばらく見ていなかった気がする。
かつて彼を形作っていた、そして今は化石のように沈黙したディバイスがまた一つ増えてしまったのか…
その代わり、最新のガジェットでは 「 形而上フロア」として、[駐車スペース]の高度を際限なく引き上げ、
オリジナルのソースコードで瞑想する事によって、
何だか彼女の公転周期が読みとれるみたいなんだ。
[治療]のための再生時間は既に人生の半分を超え、
根源的な救いを求めれば求める程、構造は複雑で巨大になり、このままでは、至る所に雑念でできた迷宮や摩天楼が乱立するのは避けられそうにない。
今回ばかりはさすがに
高度を上げすぎたのかも知れないな…
何を探していても
コックピットの中でいつも想い描いているのは、偶然目に入ったアクセスランプの光ように、
ほんのわずかにでも正常に稼働していた世界の一瞬のディテールのきらめきであったり、 夢の中だけでしか出会うことのなかった彼女の面影だったり…
それでも、
結論から言うと、上書きできそうな
は実は
ほとんど残って
いなかった
。
対して今ここから主体的にアプローチ出来ることは、
もう相当限られてきているのだろう。
あれから何処へ行く?
聞き慣れたギターリフの様な、
警笛をBGMに浮上と墜落を繰り返す
行き場をなくした
エネルギーの一部として、
彼や彼女もまた、亡霊のように
この一角にいつまでも漂っていた。
skyscraper
恣意に紛れたプログラムに 都市の升目は暗号化の着地遥か上では モラトリアムに 痩せた電柱も遺跡と化すだろう
過去を探していても 無彩色とすれ違う
聞き慣れた警笛をBGMにして浮き上がる
電話は夜にリアリズムを 浴室の壁に破滅のポエム
シャワーに打たれていると ネガフィルムが脳裏に咲く
夢遊病者に投げかけたテーゼを全て巻き戻す
あれから何処へ行く? 無言の湾岸線は流れ途切れ
このままいつまでも 併走する時間軸の葬列を知る
饗宴を抱いたスタジアムに 投げ落とされた百ドル札
惨めな幾百の手が 致死量を超えて突き刺さる
サナトリウムに置き換えた美意識が狼の様に吠える
あれから何処へ飛ぶ? 歪んだ幻想は四方八方に
それ故いつまでも 併用する経典と有象無象を飼う
何を探していても 無彩色が強くなる
プロレタリアが発表した未来地図をフィルターにかける
あれから何処へ行く? 夢幻の摩天楼は明日へ聳え
朦朧としているだけの 目録と図面が開かずの広間に舞い上がる
1.白紙のアドレス
2.摩天楼
3.招かざる意識
4.レクイエムβ
5.モスグリーンの水面に
6.古美術商は斯く語れり
7.追憶のルームナンバー
8.形而上の音楽室
9.抄宇宙
10.ネアンデルタール
0 件のコメント:
コメントを投稿